きみはひとりじゃないよ

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 ひとり残され、僕は複雑な感情を持てあました。下を見ると、一匹の犬が僕を見あげてワンワンと吠えている。 「ちょっと、なにしてるのよ。ほら行くよ」  飼い主の少女が怪訝な顔つきで、ぐいとリードを引っ張る。犬は動こうとせず、大きく口を開けている。  僕は舌を出し、あっかんべをしてやった。怖くない。どうせ手出しはできないのだから。ま、それが悲しくもあるけれど。  ようやく犬はあきらめた。いや、力でねじ伏せられた。飼い主が無理やり引っ張ていく。  僕はその場にしゃがみ、そこかしこで求愛しているセミの声に耳をかたむけた。足もとでアリが列を作って行進していた。その先には、だれかが吐き捨てたガム。 「もう夏かー」  ひとりごち、空を見た。入道雲が浮かび、燃える太陽がぎらぎらと輝いている。その下には、いつもの風景があった。横断歩道を車と人が行き交っている。  夏休み前。信号無視。衝突。轟音。まわる世界。あの日のできごとがフラッシュバックした。
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