風呂場での出来事

2/4
前へ
/24ページ
次へ
 髪を洗いながら、ふとあの話を思い出す。  いわゆる都市伝説、私がまだ中学生だった頃に友達の間で流行っていた話。髪を洗っている姿がその遊びをやっている姿に似ている事と、水場には霊が集まるという事から生まれた話。  それはこういう話だった。  髪を洗っている時に「だるまさんがころんだ」を言ったり考えたりすると霊が現れる。  何の根拠も無い話だが、当時は風呂で思い出すたびに震えたものだ。小さな物音に飛び上がり、誰かいるような気がして何度も振り返ったりと。  だるまさんがころんだ、か。今思うと馬鹿馬鹿しい話だ。  私はシャワーで泡だらけの髪を流す。  だーるまさんがーこーろんだ、ってね。  心の中で言って、独り笑みを浮かべる。こんな事で怯えていた過去の自分が微笑ましい。  シャンプーを流し終えて、リンスをやろうと容器に手を伸ばす。  コトリ、と音がした。  私は音のした方を振り替える。脱衣所の外、何か固い小物が倒れたような小さい音。気のせいだとも思える微かな音だった。  何か倒れたかな。  リビングにある小物を思い浮かべながら、私は正面に顔を戻しリンスの容器に手を伸ばす。  ギシリ。  私は振り向いた。床の軋む音。脱衣所を出てすぐの廊下。ちょうど、人が一歩踏み出したような音だった。  寒気が走り、全身の肌が粟立つ。ジワリと染み込むような悪寒に鼓動が速まる。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加