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髪を洗いながら、ふとあの話を思い出す。
いわゆる都市伝説、私がまだ中学生だった頃に友達の間で流行っていた話。髪を洗っている姿がその遊びをやっている姿に似ている事と、水場には霊が集まるという事から生まれた話。
それはこういう話だった。
髪を洗っている時に「だるまさんがころんだ」を言ったり考えたりすると霊が現れる。
何の根拠も無い話だが、当時は風呂で思い出すたびに震えたものだ。小さな物音に飛び上がり、誰かいるような気がして何度も振り返ったりと。
だるまさんがころんだ、か。今思うと馬鹿馬鹿しい話だ。
私はシャワーで泡だらけの髪を流す。
だーるまさんがーこーろんだ、ってね。
心の中で言って、独り笑みを浮かべる。こんな事で怯えていた過去の自分が微笑ましい。
シャンプーを流し終えて、リンスをやろうと容器に手を伸ばす。
コトリ、と音がした。
私は音のした方を振り替える。脱衣所の外、何か固い小物が倒れたような小さい音。気のせいだとも思える微かな音だった。
何か倒れたかな。
リビングにある小物を思い浮かべながら、私は正面に顔を戻しリンスの容器に手を伸ばす。
ギシリ。
私は振り向いた。床の軋む音。脱衣所を出てすぐの廊下。ちょうど、人が一歩踏み出したような音だった。
寒気が走り、全身の肌が粟立つ。ジワリと染み込むような悪寒に鼓動が速まる。
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