送り提灯

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 いやぁ美味しかったですね。特にあの油揚げが。  いえいえお気になさらず、おかげさまでお金には不自由してないもので。  すいませんね、無理に呑ませてしまって。おっと、危ないですよ、肩を貸しましょうか。いえいえお構いなく。  そうそう旦那、これも怪談なんですがね、「送り提灯」ってのは知らないですか? ええまぁ昔の怪談なんで、 知らなくても無理はないです。  暗い夜道を歩いていると、遠くに提灯の明かりが見える。それで、ちょいと家の近くまで照らして行って貰おうと寄ってくんですが、どれだけ歩いても提灯との距離は一向に縮まらない。  ああ、大丈夫ですよ。この林が近道なんで。まぁまぁ、 ご安心を。ちゃんと送ってさしあげます。  ええっと、それで、続きなんですがね。この「送り提灯 」、化かしてるのが狸か狐かで結末が変わるんでさ。  狸だとそのうち消えて終わるんですが、狐だと提灯を追いかけるうちに崖まで案内されて落とされるんですわ。  狸は馬鹿ですから、からかって終わるんです。その点、 狐は賢いですからね。崖から落としてポックリ逝った所を食べるんです。旦那、山道ですから、足元お気をつけて。ええ、大丈夫ですよ、もうすぐ着きますからね。  しかしまぁ、今の時代、明かりはどこにでもありますからね。提灯を追いかける人なんていない。困ったもんで す。まぁ、狸はどうだか知らないですがね。もともと狐の邪魔をして人間を助けるような間抜けでしたから。  さぁさぁもうすぐですよ。  で、旦那。今の時代、狐がどうしてるかと言うと。知り合いのフリして近付いて、崖まで直接案内するわけです。頭が回らないように、しっかり酔わせてね。  それで、崖に着いたら後は簡単。ドン、と押すだけで良いわけです。ね? 頭が良いでしょう。  さぁ、着きましたよ旦那。と、旦那、離れてください。  旦那? どうしたんですか放してくださいな。旦那、心中なんて嫌ですよ。旦那、旦那。どうしたんですか、旦那。これじゃ私が落ちてしまいやす。  旦那、酔っ払うのは結構ですが、旦那 、旦那。はな、ちょっと旦那、危ない。旦那、落ちる、落ちる。私が落ちます。やめてください、旦那。  ああ、旦那、落 ち、や、旦那、その顔。  ……畜生お前かい馬鹿狸。 了
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