誕生日の贈り物

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 夏が近づき、からりと晴れた空に、悲痛な声が響き渡る。 「お姉ちゃんっ、お姉ちゃん! いやだよ! お姉ちゃん! 死んじゃいやー!!」  今年中学に上がったばかりの少女が、長い髪を振り乱して叫ぶ。  姉の体は氷のように冷たく、その瞼は、固く閉じられている。まるで、もう二度と開きたくないと言うように、固く、強く。 「──ちくしょうっ。何でだよ!!」  もう成人と思われる女性は、小麦色の肌に赤い薔薇のタトゥーを射れ、ホワイトブロンドに染めた巻き毛をがしがしと掻いた。 「うそだ。うそだ。……本貸してくれるってゆった!!」  小学生の弟は、初めて着る真っ黒な服の袖を涙で濡らして叫ぶ。 「いやっ、いやっ、いやっ! うそぉ!!」 「──こんなのって、無い……っ」 「うぅ……、うぁっ──っく……」  残された者達は、それぞれに嘆き、また声もなく叫び、咽び泣いた。  しかし、横たわる少女に息はなく、彼らの叫びは聞こえない。  自殺だった。  睡眠薬を大量に飲み、徐々に、ゆるゆると、死んでいった。  寂しがりやのあの子が、心細く無かったはずがない。 「────っ……」  母は、血が滲むほどきつく、唇を噛んだ。  どんな想いで、あなたは独り逝ったの……?  家族が彼女の死に気付いたのは、彼女が息絶えてから、三時間が過ぎた時だった。  普段は早起きの彼女が、いつまで経っても起きて来ないのを不審に思いドアを開けると、そこには……。  今日は五月十七日。  彼女の、十六回目の誕生日だった。  そんな日に彼女は、ひっそりと命を絶った。 「……あら?」 「どうした?」 「──っ、なんでも……なぃ…………」  胸が張り裂けるような痛みに耐え、愛する娘を見た時、その口元が、ふっと、微笑んだような気がしたのだ。
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