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「……じゃあこの次のところ。遠藤、読め」
椅子が引かれ立ち上がる音が5年3組の教室に響く。
桜が散り始めた季節。
しかし小学校5年生にとっては学年が一つ上がった程度で、日常にさほど変化があるわけでもなかった。
何を勉強しても楽しかった一年生の頃に比べても、変わらぬ生活を5年も続けていれば、勉強に対する態度が慢性化してきつつあるのも当然のことだろう。
そんなこともありつつ、新しいクラスでの生活が始まったこともあり、まだ春休みの感覚が抜けきらないところも残しながら、少しだらけたクラスの雰囲気の中……
熱心にノートを取っていた出川大地は――鼻につく臭いに気が付いた。
この臭いは、アンモニア?
教室が大きくざわめき始めたことにも気になり、大地は顔を上げる。
するとそこには、騒ぐ生徒や動揺する先生に注目されながら、立ち上がったまま嗚咽を漏らし泣きじゃくる一人の女の子の姿があった。
その女の子の足元には、何らかの液体で作られた水たまりができていた。
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