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「そうですか?ずいぶんと、前のことになりますから、覚えていません。それが、本当なら、ますます、奇妙な偶然ですね。金持ちになり、屋敷を手に入れた。まさに、妄想が現実になった!もしかして、あれは予言のようなものだったのでしょうか」
「うむ」
彼は嬉しそうに語っていた。医者といえば、これを偶然や予言、そんな言葉では解決できない。そんな気がしてならなかった。
彼と別れてから数日後、医者のところに電話がかかってきた。
「どうかしましたか?」
電話の相手は、作家の彼を担当している出版社の担当からだった。担当はずいぶんと困惑しているらしく、うまく状況を説明できないでいるようだ。
「どうしたのですか?何があったのですか」
「そ、それが先生が妙なことを・・・」
同じ先生と呼ばれ方をしているが、この場合は作家の彼のことであった。
どうも要領を得ないので、医者は慌てて、かれの自宅がある屋敷に向かった。そこで、医者は怯えている彼を見つけた。
「だ、誰だ!お前達は!どうして、私はここにいるんだ!住み慣れたアパートに帰してくれ!」
「落ち着いてください!ここが、あなたの家です」
担当が彼を宥めていたが、彼は怯える一方だ。
「先生。これは、どういうことですか?妄想癖でも再発したのですか?」
「うむ」
担当の問いかけに、医者は頷いた。朧気ながら原因が分かっていた。数年前の妄想癖とは違う様子。
「根本的な原因は不明ですが、慌てることはありません。おおよそですが、治る時期は検討がつきます。おそらく、半年後でしょう」
医者が口にした期間は、数年前、彼が金持ちだと思い込んでいた妄想期間と同じであった。
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