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「よかった。患者さん、私のことが分かりますか?」
医者は確認するように、自分のことを患者に聞いた。彼はキョトンとして、
「申し訳ございません。どちら様でしょうか?」
どうやら、医者のことは知らないらしい。医者はこの半年間、彼の身に起こったことを一から説明してあげた。半年間の記憶はなかったらしく、ただただ、自分が周りに迷惑をかけてしまったことを猛省するのだった。
「そんなことがあったのですか。この半年間の記憶は曖昧ですが、どうやら多くの皆さまにご迷惑をかけてしまいました」
「妄想は終わったのです。あなたは、正気を取り戻したのです。もっと、喜ぶべきです」
彼が何故、記憶にない医者のことを知っていたのか。疑問は残ったままだったが、まずは正気を取り戻したことを喜ぶべきだった。
この奇妙な出来事がキッカケで、二人はよく会うようになった。それこそ、昔からの親友であるかのように。
患者、彼のその後といえば、この奇妙な体験を題材にした小説を書き上げ世の中に発表した。その奇妙な話は世の中に受け入れられ、数年足らずで彼は一流の作家となり、金持ちとなった。今度は、妄想ではなく正真正銘の金持ちだ。
「なんだか、妙な気分ですよ。頭がおかしくなった頃に叫んでいたことが、こうして現実になるなんて」
「私の方も驚いていますよ。今ならば、あなたが金持ちだと叫んでも、信用できます」
「それと、なんですが・・・」
居酒屋で酒を飲んでいた彼が医者にメモ用紙を渡してきた。それには、住所が書かれていた。
「これは?」
「この度、出版した本が当たりましてね。これを期に住み慣れた古いアパートを出て、家を購入しようと思ったのです。中古の屋敷ですが」
「それが、これですか・・・。しかし、この住所は・・・」
その住所に医者は覚えがあった。
「どうかしましたか?」
「いや。この住所。確か、あなたが妄想癖に襲われた時に、自分の家だと主張していた屋敷がある場所では?」
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