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 夕日の差し込む部室。相も変わらず二人きりの部活動。 「ねぇ後輩くん」  それまで手品の本を読んでいた先輩が赤い顔で言った。この人は本を読むばかりで実践なんてあまりやらないのである。  ちなみに顔が赤いのは夕日のせいだ。それはもう夕張メロンよりも鮮やかに赤くなっていた。 「……カーテン閉めましょうか?」  窓は僕のすぐ後ろなので気を利かせたつもりで言うと、先輩は「その必要はないよ」と首を振る。 「夕日が私と遊びたがってるだけなの、許してあげて」  僕はカーテンを閉めた。 「ところで何ですか先輩」  カーテンを閉めたせいか少し暗くなった先輩は、うんと一人頷いて言った。 「ねぇ後輩くん。君はこの状況で何か考えない?」 「この状況?」  僕が怪訝な顔をすると、先輩はやれやれと呆れたように首を振った。 「君はサクランボの化身か何かなのかな後輩くん? 日の暮れはじめた部室に美人先輩と二人きり……これで何も考えないの?」  美人かどうかは置いといて、どうしてこの人はそういう発想しかしないんだろうか。  先輩は続ける。 「女燻の旅って小説知ってる?」 「知りませんね」 「官能小説なんだけど」  この人は馬鹿なのだろうか。 「その本の主人公は高校生なんだけど先輩や同級生はもちろん更にはその母親とも……」 「……という事で今度後輩くんに貸してあげるよ」 「結構です」  手品の本を読んでいたので殆ど話は聞いていなかったが、とりあえず断っておく。  立ち上がって熱弁していた先輩は気の抜けたように、ガタリと椅子に腰を落とした。 「やれやれ、後輩くんは冷たいなぁ」  官能小説の内容を熱弁する先輩に苦笑い以上の優しさを見せる後輩がいたら尊敬しよう。 「というより、冷たいのは先輩ですよ。未だに僕の名前覚えて無いでしょう」  失敬な、と先輩は無い胸を張る。 「可愛い後輩の名前だよ? 覚えてるに決まっているじゃない」  これは意外だ。ずっと後輩と呼ばれてたから、てっきり覚えて無いのかと……。 「確か『あ』から始まる名前でしょ?」  はい期待して損した。
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