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口ずさみながら机の下から出てきた先輩は、机を迂回して近付いてくる。何をやる気か知らないが、既にやりきったようなドヤ顔だ。
「テレレレレレ~~ン、テッテン、テッテン♪」
座っている僕の横に立った先輩は両手を広げて見せて、何も持って無い事をアピールする。
ドヤ顔で。
どうやら手品を見せてくれるらしいが、ドヤ顔が気になって何が起きても驚く気になれない。
「テレレレレレ~~ン、テッテン、テッテン♪」
先輩がしつこく両手を見せてくるので、僕はあからさまに面倒臭そうな顔で「何も無いですね」と答える。
ドヤ顔マジシャンは続けて口ずさみながら、キザったらしく広げた両手を華麗に揺らして次の動作に……。
チャリーン。
先輩の制服の襟からコインが落ちた。僕の足元でコインがクルクル回る。先輩を見上げると手品を見せられた観客のように驚いた顔をしている。というより、完全に「しまった」という顔である。
「……」
先輩は両手を広げたまま絵画のように固まっている。
しばし沈黙。
動きそうに無いので助け船をだす。
「拾っていいですよ?」
先輩は素直にコインを拾って、いそいそと自分の机に戻り再びその下に姿を消した。
ごそごそと机の下で何かやっている。まさか明らかに失敗した今の手品をまたやる気なんだろうか。
そんなまさか。
と思っていると、不自然にのけ反った先輩が姿を現し、
「テレレレレレ~~ン……」
そろ~りと僕に近付いてきた。
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