0人が本棚に入れています
本棚に追加
抗うことの出来ない力を胸の片隅で触れながら進んだ。
老婆は闇の中を迷うことなく進んだ。渋滞をぬうパトカーのように、それは進んだ。
そこは廃れた茅葺きの家であった。どこからか突風が突き刺せば、あっという間に崩れるような脆い家屋である。周りは雑木林に囲まれている。彼らは宇宙を覆うように、隠すように繁っていた。
「とりあえず入って下さい。宿はないんでしょう。」
拒否することなく私は導かれるままに中に入った。
タンスや長椅子、テーブルが空間を占拠している。電気は通っているようで、天井には光が灯っていた。それは私に安心を与えた。そして、巨大な柱が一本そびえている。それが自然から、周りから、この住処を守っているのだと解釈した。
「ここは昔なにに。随分年季が入っているように思われますが。」
「気付いたときにはそうでした。煩雑で、柱が支えていました。その前は私には解りません。」
力無い言葉に老婆はこう続けた。
「疲れているでしょう。」
そういっていつからあるのか定かでないような布団を指差し、奥の部屋にきえた。
やっと私は疲れを感じた。しかし、腰の痛みは全く消えていた。
なにかがおかしい。そう感じるのは、その翌朝であった。
目を覚ますと老婆があった。当然のように私を引き連れ村に出る。
「私は村の外に関しては全くの無知なのです。そして私の住処についても全く知りません。」
唐突に発せられた言葉は、とこか人間らしい響きを含み、私に語りかけてきた。
「いくら熟知のために知識の紙の上に目を走らせても、なにも得ることは出来ませんでした。」
「ではどのように生きているのですか。外界との繋がりがないままに。」
私は言葉を表した。
「生きてはいません。人は二度生まれるのです。そして私はまだ一度しか生を受けていないのです。」
また機械のように言語を発する。
「それを私はこの長い生活において悟りました。私もあなたもまだ二度目の生を受けてはいません。」
私はそれが理解出来なかった。遥か遠くの言語のようにも感じられたし、猿人の唸り声にも感じられた。
「私はこれからどうするべきでしょうか。」
話題を変えるため、質問を投げ掛けた。そのような気味の悪いことに付き合わされるのは勘弁である。
「生まれなければなりません。」
ただそれを言い老婆は進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!