価値。

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抗うことの出来ない力を胸の片隅で触れながら進んだ。 老婆は闇の中を迷うことなく進んだ。渋滞をぬうパトカーのように、それは進んだ。 そこは廃れた茅葺きの家であった。どこからか突風が突き刺せば、あっという間に崩れるような脆い家屋である。周りは雑木林に囲まれている。彼らは宇宙を覆うように、隠すように繁っていた。 「とりあえず入って下さい。宿はないんでしょう。」 拒否することなく私は導かれるままに中に入った。 タンスや長椅子、テーブルが空間を占拠している。電気は通っているようで、天井には光が灯っていた。それは私に安心を与えた。そして、巨大な柱が一本そびえている。それが自然から、周りから、この住処を守っているのだと解釈した。 「ここは昔なにに。随分年季が入っているように思われますが。」 「気付いたときにはそうでした。煩雑で、柱が支えていました。その前は私には解りません。」 力無い言葉に老婆はこう続けた。 「疲れているでしょう。」 そういっていつからあるのか定かでないような布団を指差し、奥の部屋にきえた。 やっと私は疲れを感じた。しかし、腰の痛みは全く消えていた。 なにかがおかしい。そう感じるのは、その翌朝であった。 目を覚ますと老婆があった。当然のように私を引き連れ村に出る。 「私は村の外に関しては全くの無知なのです。そして私の住処についても全く知りません。」 唐突に発せられた言葉は、とこか人間らしい響きを含み、私に語りかけてきた。 「いくら熟知のために知識の紙の上に目を走らせても、なにも得ることは出来ませんでした。」 「ではどのように生きているのですか。外界との繋がりがないままに。」 私は言葉を表した。 「生きてはいません。人は二度生まれるのです。そして私はまだ一度しか生を受けていないのです。」 また機械のように言語を発する。 「それを私はこの長い生活において悟りました。私もあなたもまだ二度目の生を受けてはいません。」 私はそれが理解出来なかった。遥か遠くの言語のようにも感じられたし、猿人の唸り声にも感じられた。 「私はこれからどうするべきでしょうか。」 話題を変えるため、質問を投げ掛けた。そのような気味の悪いことに付き合わされるのは勘弁である。 「生まれなければなりません。」 ただそれを言い老婆は進んだ。
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