偽物か本物か。

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コンコン 私はノックの返事を待たずに部屋へと足を踏み入れた。 ノックをしたところで部屋の主は返事などしないだろう。 「よう、また来たぜ。元気にしてたか?」 返事はない。 そんなことはわかっていたことだが少しさびしくも思う。 後ろ手に扉を閉めると、近くの椅子に座った。 「あれほど、心霊スポットに行くときは気をつけろっていったのにな。ヒロト」 ベッドに横たわるヒロトは、ぱっと見ただけでは生きているのか死んでいるのかわからない。 医者によると、精神への傷が大きすぎたため意識がはっきりしないとのことで。 もう数年経ってしまった。 「そういえば、報告があってな。とうとうあのボロイ家から引っ越すことになったんだ」 「大丈夫、お前を置いて遠くへは行かないさ。母さんも私も、もう歳だしな。今さら遠くへも行けないが」 静かな病室に私のかすれた笑い声がひびく。 「通りがかりにお前を助けてくれたお嬢さんも今はどっかに引っ越したらしいよ」 非常にむなしい感覚に襲われる。 「だめだな、どうにも歳を取ると話が長くなりそうで。そろそろ行くとするよ」 私は椅子をもとの位置に戻すと、静かに病室を後にした。
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