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あの時願いを叶えてやろうと思ったのは、ほんの気まぐれだった。
普段は無視するのだが、あまりに切実な声に、少し心が揺れたのだ。
それにしても、可笑しな奴だった。
「かねかねかねッ!!」
だなんて、笑ってしまう。
人間というやつは、本当に分からん。
こんな紙ぺらになりたいなんて。
あの日の青年は、八十二年の生涯を終え、その名は歴史に深く刻まれた。
二年後、彼を紙幣にしようと声が上がった。
今や、癌で命を落とす者は二割を切った。それも、世界を通して、だ。
反対する者など、無かった。
『望みは叶えてやったぞ』
母の死に涙した青年は今、一万円札の中で、静かに微笑んでいる。
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