白の幽夢

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「なあ、今日俺んち来ねぇ?」 「あ、ごめん。今日は用事あるんだ……」   放課後。白百合学園高等部。二年二組。   漆黒の髪の少年に、栗色の髪の少年が絡みつく。 「えぇー! 何でだよぉー」   伸びっぱなしの語尾といい、三つ目まで開けられているワイシャツといい、栗色の少年は少々だらしがない。   一方漆黒の少年は如何にも育ちの良い品行方正だ。   普通なら冷たく見られがちな切れ長のつり目も、どう言うわけか優しげだ。 「来週末、ヴァイオリンの発表会があるから。ちゃんと練習しとかないと……」   漆黒の少年は、申し訳無さそうに眉を寄せた。 「ちぇっ。これだからボッチャンは嫌いなんだよ」 「ごめん長屋くん」   漆黒の少年から離した腕を組み、拗ねる栗色の少年こと長屋も、人のことを言えないくらいに金持ちだ。   と言うより、この学園に金持ち以外は居ない。つまりここは、有名な坊ちゃん校なのだ。 「あ、梅宮!」   軽く会釈をして教室を出ようとする漆黒の少年を呼び止める長屋。 「何?」 「もう階段から落ちるなよ。そのうち死ぬんじゃないの?」   長屋は、程良く日焼けした指で、梅宮の白い頬を隠す真っ白な布を差した。 「あ、うん……。またね」   梅宮は、いつも通り気まずそうに長い睫毛を伏せて、出て行った。 「ったく、分かってんのかよ」   ざわめく教室の中、長屋は目を細めた。   去っていく梅宮の華奢な背が、遠い。   梅宮の背で揺れる白いマフラー。梅宮は白が好きなのだ。   透けるような白い肌。梅宮は白がよく似合う。 「っ!!」   ドキリと、心臓が体に悪い音をたてる。あの夢のせい。 「はぁ……」 (古典の時、居眠りなんてするんじゃなかった……)   長屋は、長い指でがしがしと頭をかきむしった。 「はぁ」   目を閉じれば、瞼の裏に悪夢が蘇る。   血溜まりの中、事切れた梅宮の白い顔。美しかった漆黒の瞳は、白く濁っていた。 (あいつが死ぬわけ、ねぇよな) 「ふっ。ばっかばかしい」   長屋は苦笑し、声に出して否定した。 「何がばかばかしいんだ?」 「別に」   やってきたクラスメイトと、帰路に就く。   白い悪夢を引きずって。
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