あの日、シバレタ

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「渋谷さん、点滴替えますよ」 気がつくと別のナースが手に袋抱えて立っとった。 ああ、またそれか。 それ刺すと、妙に気持ちよくなるからやめてほしいんやけどな。 血管から侵入してくる薬物に酩酊し始めた俺は、まるの短く切り揃えられて、ささくれた指の爪先を思い出し、首から下がった名札の紐の色がオレンジ色だったことを思い出し、優しすぎる左目の下と、境界線がのうなってる唇の下のほくろを思い出した。 あの時は意識していなかったもんが、たくさんたくさん俺の中に残っていて、溢れだした記憶は、俺の目と耳と胸をまるでいっぱいにした。
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