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「僕、誰かとひとつになれたと思ったん、すばる君が初めてやねん」
小さな布団の中で小さな肩を抱き寄せつつ告白すると、思ってもない返事が返ってきた。
「お前はアホやな」
「なんでですかぁ?!」
「人はな、ひとつにはなれへんで。ばらばらのまんまや」
そう言うと、すばる君は僕の腕を肩から外して背を向けた。
「けど、重なることはできんねん。重なったとこに世界にいっこだけのもんができんねん。だから…俺はそのいっこを大切にしたい…と思う。」
すばる君の話は難しくて、全部は理解しきれへんかったけど、もし、僕らがなんかの色やって、それが重なってんのやとしたら、似たような色過ぎて、結局ひとつに見えるような気がすんのはなんでなんかな。
不器用やけど、一生懸命に僕に説明してくれるすばる君がいじらしくて、目の前のサラサラした髪の毛を撫でたら、すばる君は大袈裟に嫌がって僕の手をのけて話題を変える。
「さっきから気になってんけど、あの大根どしたん?」
すばる君が指差す先には花束と新聞紙にくるまれた大根が転がっていた。
「ああ。退院したおばあちゃんからもろたんです。」
「ほーん。お前、モテモテやな」
そう言ったすばる君の目に嫉妬の色が見えて、「シルバー限定やで」と付け足した僕は俄然調子に乗る。
「大根、鰤と炊いたほうが旨いかなぁ。それとも、シャケと一緒に炊いて、酒粕も入れて、粕汁にしたほうが身体ぬくもってええかなぁ」
「粕汁がええ」
「今晩、食うていきます?」
「____おん」
すばる君が恥ずかしそうに身をよじって僕から離れようとしはるから、手をとって指を絡ませる。
「手」
「離さへん」
「手、つなぐん、初めてやない感じするな」
「初めてやないですよ。すばる君から僕の手を握ってくれはったんやないですか」
「そやったっけ?」
「そうですよ」
「そか」
すばる君は僕のほうに恥ずかしそうな笑顔を向けた後、布団で顔を隠しはった。
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