第Ⅰ章

2/26
前へ
/28ページ
次へ
★僕には4歳下の妹がいる。目の離せないかわいい妹も、もう高校生。 地元では知らない人はいないくらい有名な進学校に合格したのだ。 中3になっても緊張感はまったくなく、勉強時間が増えて夜中に寝るということもなく。どちらかと言えば、本を読んだりピアノを弾いたり、ゲームをしたりしていた時間の方が多いんじゃないかと思うほど。 だから、来年にはなくなる制度と本試験の2回受験出来るから、本試験で受かればいいものだと思っていた。 ところが2月下旬、いつもと変わらぬ表情で、合格通知の紙を持って帰ってきた時は唖然とした。 後々調べてみれば、高校の偏差値は60はあったし、流桃が受けたときの倍率は2.3倍。 流桃が何も変化を見せないので、しばらくみんな思考が停止していた。 「合格したよ?」と言われてようやく感覚が戻り、家族で盛大に祝福した。 合格したからといって流桃の生活が変わることはなかった。 そんなこんなで春休みは過ぎていき、今日の入学式を迎えた。 そろそろ帰ってくるだろうと部屋を出てリビングに行くと、パタパタと足の音。 「綾にぃーっ」 「っと。……おかえり」 「ただいまぁ!」 高校生になってもこんなに子供っぽいのには理由があった。流桃はただの高校生じゃない。解離性同一性障害……つまり、多重人格者。 一般的には幼少時代に虐待などで抑制出来なくなったためにとされているが、流桃にそんなことはしていない。 ストレスでなってしまうことはないらしいが、流桃は重度のストレスで発生してしまった珍しい現象らしい。 全部で8人いるらしく。最近僕も区別がつくようになってきた。だから、それぞれの存在をちゃんと認めてあげようと、僕は8人それぞれの名前を呼ぶことにした。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加