123人が本棚に入れています
本棚に追加
「残念だった」作戦の失敗を、何とも口惜しそうに伊藤中将が言葉にする。
もはや、全ては決した。最初から無謀な作戦ではあったが、終わってみれば何とも呆気ない幕切れである。
伊藤中将はその後、幕僚達との別れを終えると、そのまま長官室の扉の向こうへと姿を消し、中へと閉じ籠ってしまった。
その扉は、二度と開かれる事はなかったと云う──
「大石、まだ動けるか…?」
傾き行く機銃座の上で、梅太郎は必死に何かに掴まりながら大石に言葉を掛ける。
もう、何かに掴まっていなければ、立っている事もままならない程に大和は傾き掛けていた。
「私は、まだ動けます!まだ戦えます!!」
負傷しながらも、大石は必死に立ち上がろうとするが、艦が傾く中、足下がおぼつかない。
船体の軋む音が、生き残った者達の焦燥感を否応なく煽る。
「戦闘は、はあ(もう)えぇ!聞こえたじゃろ?総員退去じゃ」
気の逸る大石を、なだめるように梅太郎は続ける。
「大石、まだ体が動くんじゃったら、早よう退艦するんじゃ!」
その言葉に大石はハッとなって我に返る。
気が付くと、総員退去の報せが艦内を駆け巡るように何度も繰り返されていた。
最初のコメントを投稿しよう!