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「大石…ワシは小島だけじゃのぉて、松本や佐竹、香川らのような若いモンまで死なせてしもうた。その報いかも知れんのぉ…」
「班長、何を仰ってるんですか」
まるで、最期を予感させるような梅太郎の口ぶりに、大石は只々うろたえるばかりだった。
どうして、どうして私なんかを庇って…!?」
海面は、瞬く間に梅太郎の鮮血で紅く染まる。
それだけ、梅太郎の出血は激しく、死が近付いていると言う証でもあった。
「気にせんでえぇ。それより大石これを…」
そう言うと、梅太郎は胸元から油紙に包まれた、ある物を取り出してみせる。
「こ、これは…?」
「家族の写真じゃ…」
梅太郎は、その油紙に包まれた写真を大石に渡し、持てる力を振り絞りながら続ける。
「家族に伝えてくれ。去(い)ぬる(帰る)事が出来んで済まんじゃったと…」
「長谷川班長…」
大石が言い掛けた途端、大和の巨大な艦橋が生存者達へと覆い被さるように倒れて来た。
そして、彼らを巻き込んだまま海面に大きな波を立て、大和は完全に転覆してしまう。
「──班長っ…!?」
その大波に、大石は否応なく飲み込まれ、深く深く暗い海の底へとゆっくり沈んで行く。
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