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そう言えば、綾太も少し痩せたと思う。
そして何より、今までずっと野球をしていて短かった髪が、伸ばしっぱなしで長くなっていた。
しばらくちゃんと見ていなかった所為か、その差があからさまなくらいよく分かる。
とはいえ、長いというのはあくまでも、今までの彼の髪型と比べた時の話ではあるが。
綾太は前髪が目にかかり、少し鬱陶しそうに目を細めている。
かつての輝きを失ったくらい横顔に、きゅっと唇を噛み締めた。
「あら、綾太君。
二人とも、来てくれないんじゃないかと思ってたの。
きっとあの子も喜ぶわ」
「そ、んなこと……っ」
「俺達があいつの顔見に来ないなんて、そんなことありえませんから。
……絶対に」
思わず言い淀む私の代わりに、綾太は少し強めの声ではっきりと断言した。
彼の顔を、まっすぐに見ることが出来ない。
ぐっと押し堪えるように俯く私の腕を、ひやりとする何かが掴んだ。
はっとして顔を上げると、同じように視線を足元へ向けていた綾太の顔が見えた。
ちらり、と一瞬だけ、海の底のように深く濁った瞳が、私を捉える。
それに唇を強く結び、黙って瞳を揺らした。
「……さっさと、圭祐に顔見せに行くよ」
「う、うん……っ」
おばさん達に深々とお辞儀をしながら、半ば無理やりズルズルと引き摺られていく。
綾太の表情は、後ろからだとよく見えなかった。
だけど、いくら表面的には落ち着いて見えるとはいえ、心境は決して平静な訳がない。
綾太は、誰よりも圭祐の死に影響されていた。
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