第一章 兆す。

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 そう言えば、綾太も少し痩せたと思う。  そして何より、今までずっと野球をしていて短かった髪が、伸ばしっぱなしで長くなっていた。  しばらくちゃんと見ていなかった所為か、その差があからさまなくらいよく分かる。  とはいえ、長いというのはあくまでも、今までの彼の髪型と比べた時の話ではあるが。  綾太は前髪が目にかかり、少し鬱陶しそうに目を細めている。  かつての輝きを失ったくらい横顔に、きゅっと唇を噛み締めた。 「あら、綾太君。  二人とも、来てくれないんじゃないかと思ってたの。  きっとあの子も喜ぶわ」 「そ、んなこと……っ」 「俺達があいつの顔見に来ないなんて、そんなことありえませんから。  ……絶対に」  思わず言い淀む私の代わりに、綾太は少し強めの声ではっきりと断言した。  彼の顔を、まっすぐに見ることが出来ない。  ぐっと押し堪えるように俯く私の腕を、ひやりとする何かが掴んだ。  はっとして顔を上げると、同じように視線を足元へ向けていた綾太の顔が見えた。  ちらり、と一瞬だけ、海の底のように深く濁った瞳が、私を捉える。  それに唇を強く結び、黙って瞳を揺らした。 「……さっさと、圭祐に顔見せに行くよ」 「う、うん……っ」  おばさん達に深々とお辞儀をしながら、半ば無理やりズルズルと引き摺られていく。  綾太の表情は、後ろからだとよく見えなかった。  だけど、いくら表面的には落ち着いて見えるとはいえ、心境は決して平静な訳がない。  綾太は、誰よりも圭祐の死に影響されていた。
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