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ガサッ。
真夏の夜は、じめっとした生ぬるい空気が、体中にまとわりついてくる。
星が出ている空を見上げながら、コンビニの袋を片手に夜道を歩いた。
海も山もあるこの田舎町では、都会の方と比べると極端に明かりが少なく、空気も澄んでいるから星がよく見える。
ガサッ。
ぬるい風が体を撫でて、ビニール袋を鳴らしていく。
昼間は鬱陶しいほど蝉が鳴き喚く町中も、夜ばかりは不気味なくらいにしんと静まり返っている。
出来ることならこのまま、夏は夜だけになってくれればいい、とすら思う。
そうすれば、あの大嫌いな蝉の声を聞かなくても済む。
ここ最近、めっきり夜行性になっている自分に呆れながら、ぼんやりと数多の星が瞬く夜空を見上げた。
ガサッ。
黒く塗り潰された空の中に、ぽっかりと穴を空けたように丸い月が浮かんでいる。
画用紙に転々と針を刺して空けたような星の光が、僅かだが私の目まで届いた。
その星達の中に、彼もいるのだろうか。
そんなくだらない考えすら、ふと頭に過る。
ヴーッ、ヴーッ。
今度は、携帯のバイブ音が鳴った。
画面を見ると、母の名前が表示されていた。
「……もしもし」
《あぁ、もしもし美羽(みう)?
お母さんね、今週末には一旦、家へ帰るから》
「……え?」
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