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そのまま落下するかと思われた私の体は、優しく綾太に支えられて軽く尻もちをつく程度で済んだ。
しかし、その過程で私は彼に抱き締められ、また体が震え始めてしまった。
それに気付いた綾太は、優しく頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「大丈夫だよ。何も問題ないから」
「で、でも、川に落ちちゃって……っ」
「平気平気。
あいつ、体だけは無駄に丈夫だから」
にこ、とふんわり微笑む綾太の笑顔に、思わず目を奪われた。
さっきまではずっと、淡々とした無表情だったのに。
この時初めて、彼は私の前で笑顔を見せてくれた。
その優しい笑顔に、心臓がとくとく鳴り始める。
すると、川の方から大きな声が飛んできて、私は思わずビクリと飛び跳ねた。
「こらぁーっ!
綾太、お前俺を差し置いて何やってんだーっ!
早く俺を助けろ馬鹿ぁーっ!」
「それ、人にものを頼む時の言い方?」
「可愛くねえ子供ぉーっ!」
うるさい奴でしょ、と肩を竦める綾太は、なんだかんだで楽しそうだ。
川の浅瀬でジタバタする圭祐を引き上げる為に向かって行った綾太の手を、ニヤリと何やら企んだような顔をした彼が思い切り引っ張った。
すると、ものすごい水飛沫が上がり、一瞬だけ二人の姿が視界から消える。
不安になってオロオロしていたが、すぐに二人の笑い声が聞こえてきた。
「なっ……圭祐っ、何するんだよっ」
「アハハ!
ざまーみろっ、ばーかっ!」
「馬鹿じゃねーの!?
……って、うわっ!?」
バシャンッ、と二人の間に飛び込むと、驚いた顔二つが視界に飛び込んできた。
だけど、どうしても二人が楽しそうで、其処へ入りたくなってしまったのだ。
つい、私まで再び、川の中に飛び込んでしまった。
なんとなくおかしくなって、三人で笑い合う。
すると、少し離れたところから、怪訝そうな声が降ってきた。
「綾太?
圭祐も何やってんだよ。
……って、あれ、その子は?」
「あ、渉太(しょうた)兄」
呆れ顔の青年をよそに、私達はびしょ濡れのままずっと笑い続けていた。
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