0人が本棚に入れています
本棚に追加
みゆき
「そ、その子は……」
「こんにちは! 遠藤美雪ですっ! 六歳です!」
美雪がやや緊張した笑顔ではきはきと応えた。
初めて叔母さんに会うから、ちゃんと挨拶してねと周子は美雪に言い聞かせていたのだった。
美雪はその通りに大きな声で自己紹介をしたのだ。
「エンドウミユキ……」
叔母の顔は真っ青だった。
口元はわなわなと震えていた。
「トミさん? 大丈夫ですか? どこか加減でも悪いんですか」
エプロンの女性は血相を変えて叔母のそばへ行き、背中をさすったりしている。
みゆき、まさかそんなはずは。
叔母はうめくようにそう言って、両手で顔を覆った。
「ごめんなさい。あの、驚かせてすいません。この子は私の娘で、お姉さんの遠藤シゲの孫になります。偶然なんです。偶然この名前をつけてしまったんです」
「美雪、悪いことした? 叔母さん病気なの?」
心配そうに美雪は周子の顔を見上げた。
「ママがびっくりさせてしまったの」
美雪の前に屈んで、周子は上手に挨拶できたねと笑顔で頭を撫ぜた。
そうしながら周子は自分を責めた。
同姓同名の同じ年頃の娘を連れてくるなんて、驚かせに来たようなものだ。
そんなことにも気がつかないなんて馬鹿だ。
だが叔母の動揺ぶりは異常にも思えた。
姉の子が亡くなったのはショックだったろうが、六十年経った今もなお、それを引きずっているというのはおかしい。
それほどまでに美雪は生き写しなのだろうか。
「高野の叔母さん、美雪ね、病気を治すの上手なの。お熱があるの? 冷たいタオルをおでこにのせるといいんだよ」
必死に叔母を気遣う言葉をかける美雪に、叔母はやや強張った顔を少し上げて美雪の方を向いた。
「美雪ちゃん? こっちへおいで」
「なあに、叔母さん」
「美雪ちゃんは良い子ねえ」
傍へ歩み寄った美雪の頭を、叔母は優しく撫ぜながら徐々に笑顔になった。
その顔は義母にそっくりだった。
「驚かせてしまって、本当にすいません」
周子は平謝りした。
最初のコメントを投稿しよう!