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「いいの。私が悪いのよ。そんな何十年も前のことを思い出して。もうだいぶ昔のことなのに」
気を使ってくれるところもそっくり。あの子が生き返ったのかと思ったわ。
そう続けて、叔母は当時のことを思い出したのか、目を潤ませていた。
それでも無理に笑顔を作っていた。
人に弱いところを見せまいとする叔母は、外見だけではなく、性格も義母に似ていると周子は思った。
「美雪ちゃん、びっくりさせてごめんなさいね。叔母ちゃんは大丈夫よ。昔ね、おんなじ名前の子がいたの。それでちょっとびっくりしただけよ。美雪ちゃんの名前は良い名前だから、きっとみんながつけたがるのね」
優しく話しかけた叔母に、美雪も安心したように笑顔で大きく頷いた。
「叔母ちゃん、うちのおばあちゃんと似ているね」
「そうよ、叔母ちゃんはおばあちゃんの妹だもの」
「へええ」
美雪は首をかしげている。今ひとつぴんときていないようだった。
「加山(かやま)さん、美雪ちゃんに何かお菓子を上げてくださいな」
お構いなくと声をかけた周子に、遠慮はいいのよと叔母が言って、エプロンの女性、加山さんに用意するようにと促した。
「じゃあ、美雪ちゃんこっちへ来て一緒にどのお菓子が良いか選んでくれる?」
美雪は喜んで加山さんについていった。
「加山さんはヘルパーさんなの。私は足が不自由で買い物にいけないから。とてもよくしてくれるのよ。周子さん、そんなところに立っていないで腰掛けてくださいな」
勧められるままに叔母と向かい合わせのソファに座った。
「周子さん、初めてお会いしたのに嫌な思いをさせてごめんなさいね」
「いいえ、こちらこそ突然押しかけてすいません。でも、お義母さんととても似ているので、初めてお会いしたように思えません」
「そう、そんなに似ているかしらねえ」
そう言われるのは不本意なようだった。
叔母はふと寂しそうな顔をした。
「話があってここへ来たのでしょう? 姉の体がよくないのかしら」
叔母は勘が鋭かった。
周子が叔母になんと言おうかと思案していると、叔母がにこやかにこう付け足した。
「この年になるとね、そんな話ばかりなのよ。だから特別なことではないわ」
年をとるということはそういうことなのだろうか。
死が身近になる。
死が日常に入り込んでくる。
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