~序章~黄昏に見惚れて

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「悪い、ちょっといい」 不意に廊下側から男子の声が聞こえた。つられて呼ばれた方に身体を向けるとドアの前で一人の男子生徒が私のことをジッと見ている。 誰だろう。少なくともクラスでは見ない顔である。 切れ長の目に前髪が少しかかる程度の髪型で背は平均よりは高いだろうか。ネクタイのした首元を少しだけ緩めた制服姿の男子は正に帰り際といった感じであった。 「コッチの教室にさ誰か来なかった?」 「誰か…‥ですか?」 「そう、例えば…‥こんな背の低い男とか」 彼は自分の腰ぐらいの所に平手を振って探し人の身長を表した。 背丈を見るに小学生だろうか?…‥いや、そもそも高校に子供が居るはずはないのだが。 「来てないと思いますよ…‥多分」 「多分?」 「うん、私さっきまで職員室に行ってたんで確かな事は言えないから」 私がそう言った後、彼はちょっとだけ黙り込んで教室を見渡した。 そして、ゆっくりと教室側に足を踏み入れる。 「少し調べさせてな」 「あ、ちょっ‥…」 私が気持ち程度に差し止めた手を見事に無視し。 まだ、名前も知らない男子生徒は掃除用具のロッカー内や教卓の下、カーテンの裏側に窓が開いていたベランダ等‥…おおよそ教室で人が隠れそうなスペースを一つ一つ丁寧に探しだす。 何故だろう。私にはその姿が草むらに逃げ込んだ兎を捕らえようとする狩人に見えた。
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