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だけど、いくら探しても小学生らしき子供は見当たらない。
いたって普通の夕暮れの教室だ。
「ここじゃない、か…‥ごめん邪魔したね」
右手で顎を触りながら独り言のようにボソッと男子生徒は呟くと、足早に教室を後にした。
…‥一体何だったのだろう。私は首を傾げながら先程出て行った廊下側のドアを暫く見つめる。だが、足音が遠のき やがて消えていくだけであった。
再び教室は放課後の正しい姿を取り戻し、私はその場で立ち止まりながらなんだか怖そうな人だったなあ、とか考えるのも束の間。
「おーーい」
再び背後から声が聞こえた。
私以外に誰もいないはずの空っぽの教室からだ、ハッと振り返るとソコには──
カーテンが風でなびくだけで やっぱり誰もいなかった。
「もう行った?」
だけど現実に声はする。幼さが残ったような少しだけ低い男の子の声が確かに。
「ねぇ、聞こえてる? さっきの奴のことなんだけどさぁ」
「へ…‥あ、はい」
呆気にとられている私に三度の言葉をぶつける正体不明の、おそらく男子生徒。
姿が見えないのに会話してるのは何だか妙な気分になる。
「いませんよ…‥私しか」
でも、何故だろう。
「も~ういいかい?」
気のせいかもしれないが。
「も、もういいですよ~」
私はこの声色に聞き覚えがある。
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