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冷たい風が頬を刺す。
夕方5時を知らせる音楽がどこからか聞こえ、今日の終わりを告げている。
蝋燭に火を灯したかのような夕陽が河川敷を橙色に染めて、かたや、黒になりきれない群青色の夜空に星が瞬く。
西と東で対照的な空は、まるで一枚の絵画でも眺めているかのように美しく、そして、どこか儚げだった。
河川沿いにひたすら続く小高い土手の上からは、商店街の軒並みがよく見える。
明かりが灯り始める時間帯だ。大通りは帰宅者でごった返し、さぞ賑わっていることだろう。
そんな相反するかのように土手沿いの一本道は閑散としていた。犬と散歩する小太りなおじさんも、じゃれ合いながら帰路に就く元気な小学生達も、自転車のカゴに買い物袋ををめいいっぱい積んだお母さんも、既に皆この場所を通り過ぎた後であった。
ここにはもう誰もいない。
────そう、一人の少女が。
「………‥」
立ち尽くす以外は。
土の色が染み付いた野球のユニフォームをその身に纏い。
日々の凄まじい練習量を物言わずに教えてくれる衣服は、屈強な高校球児や、やんちゃ盛りの少年が着ていてもなんら不思議ではないもので。
…‥けれど少女にもよく似合っていたのも紛れもない事実であった。
否、『似合っている』というよりも『着こなしている』と言い直すべきだろう。
堂々とした態度と言うべきか。もしくは今にも消え入りそうと言うべきか。そんな矛盾した雰囲気を少女は併せ持っていた。
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