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汗と土埃にまみれた拳をギュッと握りしめ、誰もいない寂しげな舗装道路をただただ睨むように見続ける。
目元は赤みをさし、シュッとした輪郭の整う頬には雫の通った後を微かに残す。それはつい先程まで大量の涙を流していた事を寡黙ながらに語っているようだった。
少女の瞳がぶれることはない。
忘れないよう瞳に焼き付けているのだろう。
あるいは、そう…‥戻って来ると信じたいのか。
10分たっても20分たっても30分たっても、風を受けた身体が冷たくなろうとも…‥もはや異常と呼べるぐらいに、それでも少女は前を見続けた。
再び涙を流すまで。
「…‥ッカヤロ…………なんでだよ」
クシャクシャに丸めた新聞紙のように顔が歪み、抑えきれない涙は頬から地面へとポタポタ落ちる。
溢れ出した雫が視界をぼかし更に力が入った拳はワナワナと震えだす‥…少女はまだ気付いていない。その手に握りしめるは目に見えない行き先の記された地図だということを。
春遠き茜色の空に飛行機雲が一筋の線を引く。
鉄塔のお化けガイコツは切っ先を怪しく点滅させる。
見慣れた風景が今はひどく妬ましい思えた。
そして、ようやく少女は目の前の視界から背を向けた。背を向けることができた。
音もなく踏みだした一歩目。
滑走路のようにどこまでも続いていく道をただ一人歩む。
地平なぞる白線もピストルの合図も公平を期すための見届け人もいない。
けれども少女は絶対に忘れない。
今日というスタートラインを。
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