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冗談はさておき、かくして私は軽音部に身を置くことになった。
大上さんは喜びのあまり抱きついてきたけど離れ際の妖しい微笑みを私はシッカリと確認した。
後日、縦笛の要望は当然のごとくアッサリ却下されて、今では卒業生が残した水色のギター『ストラトキャスター』が私の楽器となった。
実は一目見て気に入ってしまったことは皆には内緒だ。
弦を押さえる指が痛くて仕方ないけど今ではすっかり夢中となったへっぽこギタリスト。
放課後がこんなに待ち遠しく思えたのは初めてのことかもしれない。
けれど。
「霧島さん、早く部室棟行こうよー」
「あ、うん」
あれ以来 小松君が私の教室に来ることはなくなった。もしかしたら涙を流したあの日、私のことを彼なりに気にしてくれて遊びに来てくれてた……そう思うのは少し考えすぎだろうか。
どのみち気まぐれで気分屋な彼はどこにでも現れる。またひょっこりと顔を出すのかもしれないけど…‥なんとなくそれはまだ先のような気がした。
『また明日も頼むな』
ちょっとだけ寂しくもある。
あの日の黄昏が無性に恋しくなる。
けれども入部したことそのものに後悔はしていない。
だって。
「おーい、小松くーん!」
部室の窓から見下ろした先にはツンツン頭の彼の姿がよく映るから。
「おぉ、霧島」
私から声をかければいい。
「もう帰るの? ちょっと寄ってきなよ」
「少しは上手くなったらな、ワハハハ」
ただ、それだけのことなのだ。
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