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太陽の真下で少年がホームベースを踏みしめた。
その瞬間スタンドから割れんばかりの歓声が一気に巻き起こり熱狂がグラウンドを包み込む。
ベンチへと戻る少年もとい走者は他の選手達とハイタッチをし、喜びをあらわにする。
九回裏ノーアウト、バックスクリーンにそびえる電光掲示板は3対4と数字が変わる。
とどのつまりあと一人の走者が帰ってくれば同点となるのだから野球好きでなくとも誰もが理解できる。この瞬間が劇的でドラマチックな展開なことを。
このまま逆転、最悪でも同点にして延長戦にさえ持ち込めば このチームなら確実に勝てる……しかも、自他共に精強を誇る三番からの好打順、期待するなと言うほうが土台無理な話だ。
一塁と三塁に引っ付いている走者は相手チームのタイムが終わるのを今か今かと待ち構えていた。
どう見たって攻撃側のチームに流れが持っていかれている。
そんな中、内野の守備陣がマウンドへと駆け寄ろうと動き出す。絶体絶命のピッチャーは先ほどヒットを打たれた左中間をジッと見つめ微動だにしない。
並みの投手ならば、最終回まで投げた疲労も加わり さぞ落胆し、このままなし崩しにサヨナラ負けというケースも少なくはないのだが…‥。
「超ぶっ飛んだなぁ」
この投手は変わっていた。
渾身の一球を見事打たれたにも関わらず、悔しさは表情からは見られない、それどころか逆に満足そうに口元を歪ませているのだ。
「ヘラついてんじゃねぇえ!!」
がなり声とほぼ同時にピッチャーの後頭部に衝撃が走る。
相当な痛み、というか重みだったのか、投手は手で頭を押さえながら後ろを振り向く。すると目の前には、プロレスラーのような身長と体格を持ち合わせた男が眉をV字型につり上げていた。
これで小学生というのだから笑えない話である。
「サイン無視してクソ球投げやがってこのバカ投手!」
「…‥しょうがねーだろ、ストレートで打ち取れると思ったんだから」
投手は顔をしかめながらボソリと呟いた。
「ざけんなチビ! あんなのはスローボールっつうんだよ!しかも 空中でハエが止まっちまうようなとびっきりのな!」
大男の怒声は内野を飛び出し、主審の耳にまで届く程だ。
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