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ゴツゴツと鎧のような紺色の防具を身に纏い、左手にはめたキャッチャーミットで投手の頭をバシバシと何度も叩く。普段からの恨みつらみも込めてのことだ。
「せっかくの組み立てを無駄にしやがって~!」
元来、女房役と称されるほどに投手のことを第一に考え、労わらなければならないのが捕手というものである。
「ガン、とりあえず殴るのは駄目だ。審判見てんぞ」
「だってコイツがよー!」
だが、一塁手の制止も聞かずに怒りをぶちまけては声を張り続ける。敵方を相当研究したのだろう、その苦労が水の泡となり捕手の目には輝くものが浮かび始めていた。
他の内野陣も集まった矢先に大男をなだめるため肩を叩いたり、深呼吸させたりと苦労が絶えないでいた。
「…‥っの…パ‥…ぇぞ」
だが、本当に苦労するのはこれからだ。
「あ? 何か言っ」
「人の頭パカスカ殴ってんじゃねえ、つったんだよ脳筋ゴリラ!!」
投手は鋭い目で睨みつけたと思いきや、キャッチャーのお尻めがけて強烈なミドルキックをお見舞いする。
ドムンという音が周囲に小さく聞こえた。
それはあまりにも早技で他の内野陣も止める暇など無く、気づいた時には──
「いっ…‥きなり何しやがんだチビィイ!」
「先に始めたのはそっちだろうがキン肉大王!」
バッテリーは胸ぐらを掴み合っていた。
「なあ、剛志」
「はい、監督」
その凍りつくような場面はベンチにも丸見えだったのは言うまでもない。
「今蹴ったよな?」
「蹴りましたね」
腕組みして難しい顔をする名監督は。
「なあ、剛志」
「水とお薬ですね!」
ストレス性の胃潰瘍に日々悩まされる。
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