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「で、真面目な話どうする」
まとめ役のファーストが一言呟く。
更に緊張感は加速するが、誰一人として物怖じはせず、口元を隠して意見を飛び交わせる。
「いっそのこと満塁策は?」
「おいおい、四番から勝負しろってか」
「賭が過ぎるな」
満塁策──。
それは野球を知らない者でも一度は耳にしたことはあるメジャーな作戦名。
実にシンプルに、そしてあっという間に試合が決まる一か八かの奇策。
「いいねぇ、その賭けのったぞ」
「お前は黙ってろ!…‥けど、確かにその方が考えは単純で悪くないか。それに」
キャッチャーは小さく唸るとバッターボックス付近を見つめ苦い顔をした。
その表情の理由は全員が知っている。
なんせ、この試合ほとんどの失点に係わっているのが次の打者である三番なのだ。飛距離こそ驚く程のものではないが上手く守備の間を打ち抜く技巧派で、実質の脅威は四番以上だった。
「みんなー」
「おお、剛志。監督は何だって?」
そこに伝令役である、小さくて気弱そうな少年がベンチから駆けてきた。
剛志と呼ばれた少年は全員と目を合わせた後に監督の言葉を再生する。
「うん、三番とは勝負するなって」
「やっぱな」
どうやら監督も同じ采配のようだ。
「あと、たっちゃん」
「ん?」
親しみの込められた あだ名で呼ばれた投手は…‥。
「替えて楽させるつもりはないぞってさ」
「…‥上等」
瞳の奥をギラつかせた。
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