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「大丈夫」
「あ?」
「だって、たっちゃんが本気だしたら」
剛志と呼ばれる少年はニコニコと満面の笑みを崩さない。
「誰も追いつけないんだからさ」
年相応の可愛らしい表情には疑心の二文字は浮かばない。
なんたってTVで活躍するような戦隊ヒーローが、少年にとっての絶対的な『憧れ』が。
「バーカ、補欠はとっととベンチに戻れっての」
「はぅ」
自分の目の前には存在しているのだから。
そんな信じている存在に致命的というか当然のことを言われ、少し俯き加減にノロノロとベンチへ戻ろうと──。
「剛志」
した時に。
「待っててはやんねーぞ。勝手に追いついて来いよな」
そっぽを向く投手が無愛想にセリフを吐いた。
「うん、行くよ…‥走って行く!」
そしてマウンドは一人を残しあるべき姿に戻る。
敵方のリズミカルにメガホンを叩く音を聞きながらピッチャーは両手を腰に当て天を仰いだ。
空はもう夏の色をしていた。
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