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────立派な体つきの捕手が戻りがてら、主審に軽く頭を下げる。
眉間にしわを寄せた主審も一応は、相手が謝っているのでそれ以上何も言わないでいた。
「仲の良いバッテリーっすね」
「……あ?」
その代わりに次打者が小声で話かけてきた。要警戒である一つ年下の少年は冷静に声を紡ぐ。
「ふざけた奴だな、試合中だぞ」
捕手は目も合わさず横を通り過ぎるが、構うことなく喋り続けた。
「アンタらに言われたくないっすね…‥で、作戦は決まったんすか?」
誰が教えるか能面野郎、ド頭握りつぶすぞ…‥物騒な台詞を心の中で思いつつも言葉にはせず、捕手はマスクを被り腰を下ろした。
「いいから構えろよ」
ミットの中の指が強張る。
「とびっきりの球が来るぜ」
捕手の精一杯の強がりとは裏腹に、ストライクゾーンは打者から逃げるように外角低めいっぱいを要求する。
ここから先は今まで以上に慎重にいかなきゃ駄目だ。それこそ針の穴に糸を通すぐらいの気持ちで。
大丈夫、あの猿にはそれだけの技術を持ってる…‥口が裂けても言わないけど。
そして『プレイ!』という掛け声とほぼ同時に投手は腕を綺麗に振り下ろした。
白球が放物線を描き、数秒後パスッという音を立ててミットに収まった。
「ストラィーッ!」
ど真ん中にゆっくりと。
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