君と羊と青

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スローボールだ。 誰が見ても。 見間違えることのない。 見事なスローボールだ。 失投ではない、その証拠に投手は早くボールを寄越せと当然の如くグローブをこちらに向けている。とどのつまり作戦無視。 (あのヤロォオオオオオオーー!!) 捕手は心の中で叫びのたうち回るも、なんとか顔には出さないで無表情を保つ。このまま十八番のアックスボンバーを全力で喉元に喰らわせてやりたいが、それは試合が終わってからにしよう。 「とびっきり、ね」 グリップをギュッと握り直す。 打者は馬鹿にされたと勘違いしたのだろう、呟いた声からは怒りがにじみ出る 「ハハ……だろ?」 まあ、捕手ほどではないが。 はっきり言って初球のストライクは運が良かったにすぎない。打者があまりのスローボールに呆気にとられ見送ったただけ。 次・は・無・い 打者の背中が寡黙ながらに、そう語る。 捕手も、ただならぬ雰囲気を感じ取り再びタイムをかけようと立ち上がるが、些細な異変に気付いた。 マウンドの少年が足先を不規則にパタパタと上下に動かしているのだ。 それは言われなければ分からないような微々たるもので、女房役の『岩丸 好美』だからこそ理解できたレベル。 (あの猿、このタイミングで…‥鼻歌かよ) 眉間にシワをよせた捕手は内野を見渡すと、守備陣全員は『諦めな』とでも言いたげに頷いていた。 ここまで来るともはやヤケクソだ、捕手は素直にボールを投げ返し再び座り込む。 ──ああ、そうかいそうかい。どうせ言ったって聞かねーんだろ。 ──だったら全部受け止めてやらぁ。 毒を以て毒を制す。毒薬変じて甘露となる。 ──ただし、負けたら一人アメリカンノック(リアル地獄)だボケェ!。 ただし、劇薬にて使用の際は注意すること。
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