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誰しも逆転劇を期待したバッターだった。
しかし、現実は たった三球で終わってしまい歓声は勢いを失う。
「何すか………‥今の球は?」
あまりにも理解できなかったのだろう、我慢できずに三番バッターは去り際に質問した。
打てなかったことへの悔しさよりも、単純に謎の球への好奇心が勝ったのだ。
「スローボール、とびっきりのな」
対して捕手は『タネ明かし』をするつもりもなく言葉を濁す、渋々ベンチに戻る三番打者は次打者の四番に一言こう言った『今まで以上に引きつけて下さい、遅すぎて打てないとは違います』と。
それを聞いた四番は深く頷き対策を講じた、だが、その後も投手は同じような球を投げ続ける。
空振り、空振り、また空振り──。
「ねぇ、なんかさ」
そして皆が徐々に気づき始める。
「…‥静か過ぎない」
先程からファールチップの金属音さえも聞こえない異様な光景に。
見送ればストライク、けれど振っても当たらない、まるでこの回だけ口裏を合わせたかのような試合展開だ。
しかし、ここまでの激戦を見ていれば八百長では無いことは誰もが分かる。
その証拠に、ゆるい球が投げ放たれても緊張感は削がれない、むしろ雰囲気は研ぎ澄まされて鋭くなったぐらいだ。
打てそうで打てない。
現実と何かが噛み合ってない。
例えるなら巧妙な騙し絵みたいなもんだ。
そう頭で理解はしていても。
「ツーアウトォォォオ!」
計算式と答えが見つからない。
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