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あえて一際大きな声でアウトカウントを叫ぶ捕手。内心では冷や汗が止まらない止まらない。
(綱渡りだ…‥断崖絶壁の綱渡りだ)
なんたって全てのボールがバットす・れ・す・れ・を横切るのだから。
ああ、マウンドに立つ少年が笑っている…‥クソ、なんて憎たらしいんだ、その心の底からって感じの面がよぉ!
「ストラィー!」
当然だが野球というスポーツは一人では出来ない。
投げる者、捕る者、打つ者、走る者。
同じチームプレイでもサッカーのように途中で欠けることも許されない。九人が九人いて初めてチームとして成り立つのだ。
しかし、この最終回、この瞬間に限っては、良くも悪くも投手の独壇場となっていた。
青と。
白と。
蒸し暑い土の上で。
「ストライ、ツー!」
少年はわがままを貫き通す。
少年は遊び尽くす。
技術と運とペテンと度胸をごちゃ混ぜにした投法を目の当たりに、いつしか球場の声は審判のものだけになる。
実際にこんなことがあるのだろうか。
まるで彼だけに脚光が浴びるかの如く、たったの一試合、しかも、最終回だけだが。
敵も
味方も
観客さえも。
心は奪われかけていた。
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