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頬を伝っていた汗が激しい動作で空中に弾ける、体力以上に精神力がゴリゴリと削られていく。
暑い、苦しい、辛い。
でも。
それでも。
「ハハッ…‥最高」
今が楽しくて仕方ない。
感覚が麻痺するぐらいに感情が埋め尽くす、この世界の色という色を無我夢中にがぶ飲みする少年。
だから些細な違和感に気付けないのだ。
肩肘に『ピシッ』と何かが張ったような音に。
──
────
「すげぇ…‥魔球エックスだ」
そんな頭の悪い行動をベンチで見守る剛志の瞳は憧れで満たされキラキラと輝いていた。
もちろん それはただの錯覚である。どんなに技術的に優れていても今の少年の姿は蛮勇で無謀で。
カキンッ
ひたすらに我が儘なだけだ。
甲高い金属が一瞬だけ聞こえる。それは、バットが真芯でボールを捕らえた音だった。
既に白球は濃い青へと突き刺さるように飛んでいく。
大きく、大きく…‥それはもう外野スタンドに突き刺さるんじゃないかというぐらいに。
「あ~あ」
投手は溜め息を漏らしながらも打球の行く末を見続けた。
「見せ場作っちまったな」
そう、勝利を確信しながら。
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