~序章~黄昏に見惚れて

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   黄色く染まった教室に学校のチャイムが響く。 廊下から男子達の帰り際の買い食い計画が否応なく右耳に入ってきた。図書館前のラーメン屋は安いとか、どこかのお好み焼き屋が美味いだとか、そんな類の話しだ。 「霧島さん、本当ごめんね」 「ううん気にしないで、コッチは大丈夫だから」 今時の女性らしい高いソプラノ声、世の男性にはたまらないだろう。 「このお礼はいつかするから先生には適当に誤魔化してね、お願いだよー」 そう言って手を振る彼女は、待っていた友達と可愛らしい笑い声を混ぜながら教室を後にした。 なんでも付き合っている彼氏との約束があるそうで早めに帰らないといけないらしい。おかげで彼女の係りの仕事を頼まれ私が受け持った次第だ。悪い子ではないけど少し無責任すぎじゃないかと思う。 でも、ああまで何度も頭を下げられては気の弱い私にはどうにも断りきれず。結局情け無い苦笑いをこぼしながら頷くしかなかった。 兎に角これで教室は空っぽ、私一人になった訳だ。 放課後の教室に野球部の野太く怒っているようなかけ声が窓から勢いよく侵入する、廊下からは吹奏楽部のお世辞にも上手いとは言えないトランペットの音が微かに流れ反響している。 「……ハァ」 小さく溜め息をこぼした後。担任に渡す大量の文書を抱えて私は廊下をゆっくりと歩く。窓に目をやるとさっきまで謝ってた彼女がちょうど友達と楽しそうに校門を出るとこだった。
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