~序章~黄昏に見惚れて

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 私はそれを羨ましそうに見つめていた。廊下で立ち止まる私に外の人達は気づいていない。 入学式が終わり学生生活が始まってちょうど今日で2週間。   新入生のざわつきも収まり新しい環境にも慣れ始める頃合いだ。自分の前の席の人や後ろの人もしくは隣人はたまた遠くの窓際。もっと言うと別のクラス間でも気の合う友達同士が集まりグループが固定される頃だろうか。 限られた時間と空間の中で皆は色々なものを共有する。 特別塔まで続くやけに長い廊下、学食の豊富なレパートリー、趣ある古びた旧館、覚えきれない生徒の多さ。教育者に対する芸術的センスなあだ名。 そう、本当に色々と。 でも私は違う。 課題が分からないから教えてと言われる時も、昼休みになって皆とお弁当をとる時も、体育の授業中 暇を持て余して雑談する時でさえ顔ぶれは違くて…‥そう私には特定の仲が良い人は居ないのだ。 形の全容さえ出来上がってない私の高校生活はどこか空虚だった。 ふと思う時がある。こんな私でも彼女みたいに充実した高校生活が送れるのかな、と。 何か部活でもやれば、ああやって友達同士で和気藹々と帰ったりできるのかな、と。 もしくは…‥そう、例えばいつか好きな人が出来て恋をして、さらには恋愛をすれば素直に笑えたりするのだろうか。 手をつなぎ。買い物に付き合い。そしてキスを‥し…‥て。 (…‥って何を考えているんだ私は) 興味がないと言えば嘘になる。できることならそういう経験をしてみたい。けれど、そんな相手が居ないのは自分が良く知っている。今の私が出来ることはA4サイズの書類の束を職員室に届けることぐらいだ。 私は廊下を歩く。
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