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「失礼します、河野先生いますか?」
職員室のドアを開けるとコピー機の忙しなく動く音が耳に入ってきた。見るとカシュカシュと実にリズム良く印刷の済んだプリントを下へと排出している。
「おー、コッチだ霧島」
無精ひげに黒縁めがね、白いワイシャツ姿の男性教師が手を振ってここに居るぞと合図を送った。机に座ってはいるが顔はこちらには向いておらず赤ペンを持ちながらサラサラと何かを書いていた。
担任の河野先生も、コピー機 同様 忙しそうだ。
「提出分のプリント持ってきました」
私は隣まで近づき書類を手渡す。
「おお、すまんな…‥ってあれ、お前が担当だったっけか?」
河野先生は、回転式の座椅子をキィっと回しコッチを向くと怪訝な表情のまま持っていた赤ペンで旋毛をグリグリと掻いた。
「あ、いえ 宇津木さんはちょっと体調が悪いそうで帰られたんです、それで私が代わりに」
「ふーん…‥しょうがねえなアイツは、とにかくご苦労だったな」
納得がいかないようで納得した先生は低い声で応えてくる。
「いえ、このくらい全然」
「んじゃあ後はもう大丈夫だから気をつけて帰れよ」
「はい」
先生との単純な会話はそれで終わり。
「霧島ぁ 帰る前にちょっと先生っぽいこと言っていいか」
だと思ったのに後ろを振り返った瞬間。
「えっ…‥と、先生ですから良いんじゃないでしょうか」
「ヌハハハ 確かにそうだ、まあなんつーの、お前は聞き分けが良すぎる気がしてな、つまりあれよ…‥いのち短し、だぞぉ」
「?」
「宇津木みたいにズルしろとは言わんが…‥つまり華の高校生活、もっと楽しめってことだ」
その言葉足らずな台詞が異様に私の心へと刺さった。
そして、宇津木さんの件はやはりバレていた。
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