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「玄助?」
坂道を歩きながら、あやめが「どうしたの?」と言う表情で僕の顔を覗いていた。
「あ、ああ。
いや、守人が何を考えているかは分からないけど、せっかくの夏祭りだし、楽しまないとななんて考えていたんだ」
「楽しまないと、ね。
玄助。千鶴(ちづる)の浴衣姿を楽しみにしてるんでしょ?」
九条千鶴(くじょう ちづる)は、村有数の地主を親にもつ箱入り娘。
長い綺麗な黒髪に、同級生のあやめよりずっと大人っぽい顔立ちの和風少女は浴衣姿も似合うはず。
「それはまぁ、ちょっとは期待してるかも。
ん、あ、いや……。
あやめも似合ってるから大丈夫だよ」
「大丈夫って何?
あれっ、あそこにいるの、千鶴じゃない?」
不満そうだったり、明るい表情に転じたり、忙しく表情を変えるあやめが坂の上を指差した。
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