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「玄助は、やっぱりカメラマンを目指すの? お父さんみたいに」
僕の父は、風景写真を専門としたフォトグラファーだった。
六角村へ引っ越して来たのも、父が寒村を囲む雄大な山の景色に見入られたからだ。
あの山は人の心を惹きつける……そんなことを話していたのを覚えている。
父は、去年の夏、山中での撮影中に地滑りに遭って他界した。
僕が本格的にカメラを勉強するようになったのは、それからだった。
「うん。町に出て、これをもっと勉強する。親父みたいなカメラマンになりたいから」
「そっか。玄助、最近、一生懸命だもんね」
徐々に暗くなる夏空を仰ぐあやめの表情は、どこか寂しそうに見えた。
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