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「――!?」
それは急だった。急に視界に映って、でもそれから視線を逸らす事無く追った。
――それは、紗英。
間違える訳はない。
「おい!」
「はっはい!!!」
視線を後ろに向けたまま運転手に叫ぶと、怯えたような返事が聞こえる。
――車をとめろ。
そう出てくる筈が出てこなくて、車は行き場を失い車道の脇にとまった。
あれは、紗英だ。だが、紗英の前に出て何をする?
「あのぉー……」
控えめな声が聞こえて、我に返る。
一体、俺は何を考えているんだ……呼び止めたって、何もできやしないのに。
「すまない。出してくれ」
「……はい」
運転手にそう言って、「ハァ……」と溜め息を吐きながら、後部座席に座り直した。
本当に、……哀れだな俺。
――だが……なんだ?
この言い知れぬ不安感は。喧嘩でもしたのだろうか。
車が動き出して
キラキラと色鮮やかな街並みが瞳に映る中、――紗英の瞳が気になった。
その瞳は、――悲しみに溢れたような辛そうな瞳。
いつまでも脳裏に付いてまわった――――……。
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