story.1 その瞳は

6/16
前へ
/81ページ
次へ
――ふと思い出す。 『未練など、もうない。ただ、姿を見たい声を聞きたいだけだ』……と言ったら  姉貴に、――それが未練だというんだ、と殴られた。 「ハァ……」  斗真の社長室を出て左側から見える景色は最高なのに、溜め息が出て顔を上げているのも ――面倒だと感じる。  哀れに未練に次は……嫉妬でもするか?  ああ。馬鹿馬鹿しい。  もう戻ってきやしないのに、そんな事を考えるなんて ――まさに、哀れだ。  1度自宅に帰ろう。  朝の残骸を思い出すと、虫が這う想像が出てくる。  身震いをしながら、エレベーター付近まできて ……ん?  なんとなく、左側にある扉が気になった。誰か、――泣いてるような。  扉付近で足を止めてみるけれど、聞こえず首を捻った。 「――気のせい、か?」  給湯室と書かれたプレートを流し見て、エレベーターのボタンを押し  そのまま、降りた。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

359人が本棚に入れています
本棚に追加