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「セリカ……だよね?」
彼女の祈りは天には届かなかった。階段を上ろうとしたところで、背後から声を掛けられてしまったのだ。走ってきたためか少し息切れしている。それでも、その声が誰のものかはすぐにわかった。心臓が破裂しそうなほどに強く打っている。息苦しくて、声も出せない。
「セリカ?」
彼はセリカの前に回り込み、顔を覗き込んだ。そして、セリカであることを確認すると、にっこりと笑顔を浮かべた。
セリカはこわばった表情のまま、おそるおそる辺りを窺う。
「ジークとアンジェリカはいないよ。ふたりとも気づいてないみたいだったから、こっそり僕だけ抜けて来たんだ」
リックは人なつこい笑顔を浮かべながら、軽く右腕を広げて見せた。何も隠し事はしていないというジェスチャなのかもしれない。左脇には教本と筆記具が抱えられていた。これから図書室かどこかへ移動するのだろうか--なぜか、そんなどうでもいいことをセリカは考えていた。
「元気?」
ぼんやりしているセリカに、リックは優しく尋ねかけた。
「え、ええ、まあそこそこ」
多少、動揺しつつも、意外と冷静にセリカは答えた。ジークとアンジェリカがいないというのが大きかったのかもしれない。このふたりがいたら、何も言えないまま逃げ出していただろう。
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