7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
思い起こせば、以蔵は今まで不憫な人生を歩んできた。
元は、土佐藩(現高知県)で足軽という大層身分の低い武士の子として生を受けた。
この土佐藩では武士の中にも、上士と下士という大きく分けて二つの階級があった。
一見どちらも武士に見えるが、この二つは全くの別物。
上士と下士の間には恐ろしい身分差別があり、以蔵の足軽は、この下士の中でも更に最下層の身分にあたる。
下士でさえ、上士に大した理由も無く斬り捨てられても文句も言えず、下駄や傘の使用も許されない。
この土佐藩(現高知県)のお殿様にお仕えする事も許されず、ただただ犬畜生のような扱いを受けてきた。
時には理由も無くどぶに突き落とされ、時には目障りだと顔を泥沼に足蹴に押し付けられるも、ただ平伏する事しか許されない。
以蔵は血反吐を飲み込んだ。
土佐藩にとっての侍とは上士を差し、下士は商人や百姓以下の奴隷身分であった。
更に、この以蔵の岡田家は、足軽という身分だった事もあり、子供の頃は塾にも通えず、貧乏過ぎて袴を買うお金すら持ち合わせていなかった。
毎日毎日、家族とその日生きる事に必死であった。
それでも以蔵は家族が笑顔でいてさえくれれば良かった。
その日限りの金銭しか稼げぬが、幼少の頃より内職や出稼ぎで何とか切り盛りしていた。
しかし時代は以蔵の人生を狂わした。
最初のコメントを投稿しよう!