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当然、以蔵も幼少の頃より上士には血へどを吐く思いをさせられてきた。
時には、たいした理由も無く見苦しいというだけで殴られ、時には足軽風情が袴を掃くなと肥溜めに突き落とされた。
しかし上士に逆らおうものなら、一家もろとも切腹、いや足軽では切腹すらさせてもらえず曝し首かも知れないが、死罪は免れない。
以蔵は、このような苦汁を何年も飲まされ忍んできた。
それでも以蔵は己だけの事ならば、いささか堪える事もできた。
ところが、上士の人を人とも思わぬ態度は、以蔵の家族や友へも矛先は向いていた。
以蔵は許せなかった。
本当は上士を全員消し去ってやりたかった。
しかし下士である足軽には直談判する権力も無ければ、藩の政治に口を出せる身分でもなかった。
以蔵は毎晩毎晩、家族や友人が苦しめられるのを目をつむって堪えに堪えた。
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