7人が本棚に入れています
本棚に追加
いや、正確には土佐や仲間を守りたいという気持ちは変わっていなかったのかも知れない。
しかし、今までのような優しい武市ではなく、成果の為なら手段を選ばない冷徹な目をしていた。
先ずは手始めに、反対していた上士の吉田東洋を土佐勤王党の那須信吾、大石団蔵、安岡嘉助を使い暗殺。
時勢が武市へと傾くと、その吉田東洋暗殺を探っていた上士、井上佐市郎を暗殺するように以蔵に命じた。
以蔵は、今まで誰にも評価をして貰えなかった己の腕を信じて、武市は天誅という暗殺を任せてくれたものだと解釈して実行に及んだ。
まず井上を料亭大与に呼び出した。
更に井上には山ほど酒を飲ませ泥酔させた。
帰宅する際、気分も良くなり、鼻歌を謡ながら心斎橋に通りかかった所で、橋の上にて、以蔵は後ろから一気に一太刀の元、斬り捨てた。
しかし井上佐市郎は血を撒き散らしながら 、地をはいずり以蔵の足を掴んだ。
「死にたくない……」
直ぐさま、同じく武市より暗殺を任された久松喜代馬、岡本八之助、森田金三郎の四人で拘束し、力いっぱい首を絞め絞殺。
遺体は橋上から道頓堀川へと投げ棄てた。
以蔵は直後、これで良かったのだと何度も何度も自分に言い聞かせた。
井上佐市郎を野放しにして、武市が吉田東洋暗殺を命じた事がばれてしまえば武市は死罪。
以蔵は、ただ武市を守りたかったのだ。
初めて人を斬り殺した、両手は震えていた。
この井上の顔は、一月離れなかった……。
最初のコメントを投稿しよう!