ラディスの泥棒

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「ん……」  遠くでパチパチと爆ぜる音がしてカヨは目を覚ました。  朝日が眩しい。  空気いっぱいに美味しそうな匂いが広がっている。  夢の中だろうか。  随分と心地良い。  このまま、眠っていたい――。  ぼんやりしていると懐中時計が胸から滑り落ちた。 (あ……)  それを引き金に、昨夜の事がゆっくりと思い出される。  確か昨日――…… 「!」  カヨはガバッと身体を起こした。  反動で身体が前につんのめる。  ――確か昨日、とんでもないことを経験したような。 「あ、起きた?」 「きゃっ!」  びくっと体を跳ねさせ、声のした方を見ると部屋の入り口にフライパンを持った少年が立っていた。  カヨよりも少し年上で、くしゃっとした黒髪は後ろだけやや長く首が見え隠れしている。  ややつり気味の黒く大きな目は好奇心に溢れた煌めきを宿し、レモングラス色の学生ズボンからは白いカッターシャツがはみ出している。 「……えーっと」 「……っ、ごめんなさいっ!」 「うわ!?」  我にかえったカヨは間髪を入れずにバッと頭を下げた。  少年は何か言いかけたが無視して謝る。  今すぐ、ここを立ち去らなければ。 「す……すぐに出て行きますので」  カヨは目を合わせずにそろそろとベッドを降りた。 (やっぱり住人がいたんだ……どうしよう……!) 「ちょっと……待って!」 「!?」  そそくさと部屋を出ようとするカヨを少年が引き留めた。  住処を荒らされた小動物を宥めるような仕草でカヨの近くまで来ると顔を覗き込んだ。 「えっと……その、大丈夫……?」 「えっ……」  予想外の言葉に今度はカヨが驚いて言葉につっかえた。  大丈夫ではない。  それこそ、見ず知らずのこの少年であっても助けを求めたい程に。  ここを出たとしてもカヨにとってこの世界は全てが未知だ。 「……あ、あの……私……」  何とか返そうと言葉を探すも、上手く文章にならない。  焦っていると少年は申し訳ない顔をした。 「ごめん。とりあえず、食べない?」 「えっ?」  少年がキッチンを指す。 「……腹減ったしさ」  そう言うと少年は部屋から出て行ってしまった。 「……食べないの?」  しばらくポカンとしていると少年がキッチンからひょこっと顔を出した。  何が何だか分からず、カヨは慌てて部屋を出たのだった。
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