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「…よくここが分かったな」
森の奥にある小さな廃墟の中で煙草を燻らせていた古宮は、遥が入口に現れると構えていた拳銃を制服の上着にしまった。
「…煙草が落ちてた」
死んだような声が出た。
「で、首尾は」
遥は背を向けたまま首を振った。
「…そうか」
古宮はひび割れて煤だらけになった暖炉にライターを付け、何とか火を灯そうとした。
「まぁ連絡が無かったし、何かあったとは思っていた」
「…」
遥は黙って朽ちかけの木戸を開けて外に出た。
森の奥から湿った匂いが風で流れて来ては傾きかけた太陽の光に消えていく。
さっきの話で古宮がどこまで理解したのか分からなかったが今は何も考えたくなかった。
近くのなぎ倒された木の一つに腰掛け、暫く遠くの街が橙に染まっていくのを眺めた。
やがて一番星が瞬き始めても、古宮が連れ戻しに来ることはなかった。
ぬるま湯のような夜が森に訪れた。
ぼんやり見えるソリアーノの街にはちらちらとオレンジ色の明かりが現れ始め、古宮がいる小屋にもいつの間にか暖かそうな火が灯っていた。
遥はその明かりに惹かれるように静かに小屋の中に入り、丸椅子に腰掛けた。
暖炉ではパチパチと元気よく火が爆ぜている。
ドンドンッ
「「!」」
遥がはぁ、と一息吐く間もなく、突然小屋の木戸が揺れた。
すぐに古宮が木戸に拳銃を向ける。
遥も立ち上がって木の隙間から外を見た。
戸口に誰かいる。
暗くてよく見えないが、ひび割れた扉の繋ぎ目からかすかに香水の匂いがした。
古宮が拳銃を向けたまま、扉をそっと開けた。
ギィ、と大きな音を立てた扉を細い指が押さえ、暗がりからすっと若い女性が現れた。
薄手の黒いトレンチコートの中に太ももまでの赤いワンピースを覗かせた格好はほっそりとして魅力的な太ももを引き立たせる役目を負っている。
そして彼女もまた、古宮と同じように拳銃を向けて立っていた。
「お前は…!」
明かりに照らされると、古宮は彼女が昼間街で革売りの男をやり込めた女性だと分かった。
今度は昼間とは違い、マントもフードも被っていない。
「確か、手配されてた…」
遥が記憶を辿りながら言った。
「あたしはれんげ。
貴方達の敵じゃない」
そう言ってれんげは拳銃を下ろした。
「だからそっちもしまって」
「…」
古宮が拳銃を上着にしまうと、れんげはキリッとした雰囲気を解いた。
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